LLMを横断して呼び出せるプラットフォーム OpenRouter に、提供元を明かさないモデル が無料で追加されている。モデルIDは stealth/ox-alpha、表示名は Ox Alpha で、同社のAPIが返すメタデータによれば登録時刻は協定世界時の2026年8月20日20時4分(日本時間では8月21日午前5時4分)だ2。
OpenRouterはこのモデルを「コーディング、持続的なエージェント作業、本番ワークロード向けの推論モデル」と説明し、長期にわたるソフトウェアエンジニアリング、複雑な推論、テキストと視覚的な文脈を組み合わせるワークフローに向く、としている1。
公開情報から確認できる仕様
まず、公開情報で裏の取れる部分を整理しておく。OpenRouterのAPIが返すメタデータでは、コンテキスト長は 1,048,576トークン、入力は テキスト・画像・動画、出力はテキスト、最大出力は 131,072トークン となっている2。入力・出力とも価格は0で2、モデルページの実効価格も入出力ともに100万トークンあたり0ドルと表示される1。1Mというコンテキスト長がどういう意味を持つかはコンテキストウィンドウの解説記事で扱っている。
推論については mandatory: true(推論が必須)で既定が有効、努力度は low / high / max に対応し既定は max とされている2。ツール呼び出しに対応するパラメータ(tools、tool_choice)も並んでおり2、エージェント用途を想定した構成であることは仕様からも読み取れる。トークナイザは Other と表示され、is_moderated は false である2。
提供体制も普段と違う。OpenRouterは通常なら複数のプロバイダーの間でリクエストを振り分けるが、このモデルは 1社がホストしていて、すべてのリクエストがそこへ直接転送される と明記されている1。Rampが社内で使ってきたLLMルーターを外部提供した件のようにモデルを切り替えて使う設計が広がっているが、このモデルに関しては振り分けの余地がない。
「開発元は匿名」と明記されている
このモデルの特異な点は性能ではなく提供のされ方にある。OpenRouterはモデルページで、Ox Alpha が ステルスモデル であり、開発・運用しているのは このプレビュー期間中は匿名でいることを選んだ第三者のプロバイダー だと説明している1。同社は「OpenRouterはリクエストをルーティングしているだけで、開発者でも所有者でも提供者でもない」とも書いている1。
つまり、誰が作ったモデルなのかは公開されていない。SNS上ではさまざまな推測が飛び交っているが、本稿執筆時点で名乗り出た企業はなく、公開された1次情報も存在しない。同様に、有志が私的に走らせたベンチマークの数値も出回っているが、こちらも公開の裏付けを取れる性質のものではない。
入力の扱いは、モデルページと規約で書き方が違う
使う前に読む価値があるのは、むしろ規約のほうだ。
モデルページには「このモデルのプロンプトと出力はプロバイダーによって保持され、学習には使われない。それ以外の利用は Stealth Model Terms に従う」と書かれている1。
一方、その Stealth Model Terms にあたる Stealth Program End User License Agreement(2026年7月6日更新)を開くと、プログラム全体の説明はこうなっている。一部のモデル提供者は、ステルスモデルの学習と改善に使うユーザーコンテンツを収集する目的で、限られた期間、匿名で無料でモデルを提供する3。そして利用者は、自分のユーザーコンテンツがOpenRouterに収集されステルスプロバイダーと共有されうること、OpenRouterがプロバイダーの名前や素性を開示しないことを了解したものとされ、ステルスモデルの学習にユーザーコンテンツを渡したくないなら、ステルスモデルの利用を控えるべきだ と明記されている3。
無料である理由も規約に書かれている。ステルスモデルへのアクセスが無料で提供されるのは、ユーザーコンテンツを学習と改善のために提供することの対価として である3。利用者はOpenRouterに対し、ユーザーコンテンツを複製・保存・利用・ホスト・配布するための非独占的・取消不能・永久・譲渡可能・全世界・無償のライセンスを与え、加えて当該ステルスモデルの学習・評価・改善のためにプロバイダーへ配布・サブライセンスすることも認める形になっている3。
個別モデルごとの追加条件を掲載する Supplemental Terms のページもあり、「以下に載っていないステルスモデルには、標準のEULA以外の追加条件は適用されない」と説明されている4。2026年8月23日時点で、このページに掲載されているモデルは1件もない4。
モデルページの「学習には使われない」という記述と、EULAの「学習と改善のために収集する」という説明のどちらが優先されるのかは、公開されている文書からは判断できない。機微なコードや顧客データを通す前に、この点を確認するかどうかは利用者側の判断になる。
規約に書かれている、その他の実務上の条件
学習利用以外にも、業務で使う場合に効いてくる条項がいくつかある。
入力に含まれる個人データはプロバイダーに渡る。 自分や第三者に関する個人データを入力に含めた場合、その入力と含まれるすべての個人データがステルスプロバイダーに提供されることを了解したものとされる3。ただし、プロバイダーに渡るユーザーコンテンツにはハッシュ化された識別子が付され、個々の利用者がプロバイダーから識別されない形にすること、プロバイダーがハッシュ化識別子やユーザーコンテンツから個人を再識別しようとすることをOpenRouterが契約で禁じることも、同じ規約に書かれている3。
機微情報の投入は利用規定(AUP)で禁じられている。 法令上の保護や配布制限の対象となる情報、13歳未満の子どもに関する情報、健康情報・金融情報その他の機微カテゴリの情報 をステルスモデルに送信・アップロードしてはならない、と明記されている3。
性能に関する機密の技術情報を公に広めることも禁じられている3。リバースエンジニアリングや逆コンパイルによってソースコードを得ようとすることも同様に禁止項目に入っている3。
提供はいつ終わるか分からない。 ステルスモデルは各プロバイダーとOpenRouterが定める限られた期間だけ提供され、継続的な可用性は保証されない、とされている3。SNS上では無料期間の長さについての発信もあるが、OpenRouterの公開文書に具体的な期限は書かれていない。
何を確かめてから触るか
「1Mコンテキストのモデルが無料で使える」という条件だけを見れば、試す価値はある。仕様も価格も公開情報で確認できるし、識別子のハッシュ化のように利用者側に配慮した条項も置かれている。
一方で、通常の商用APIと違うのは、提供元が誰か分からないまま入力が渡る という点と、無料の対価が規約上ユーザーコンテンツである と書かれている点だ。個人の実験や、公開しても困らないコードで試すぶんには問題になりにくいが、社内のコードベースや顧客データを扱うワークフローに組み込む場合は話が変わる。少なくとも、規約に書かれた機微情報の禁止条項に自社の用途が抵触しないか、提供が突然終わっても業務が止まらない構成になっているかは、触る前に確認しておく類のことだろう。
評価そのものについても、公開の裏付けがある数字がまだ存在しない以上、自分の実際のタスクで測るのが唯一の判断材料になる。その際、AUPが性能に関する機密の技術情報の公表を禁じている点3は、結果を社外に出す前に思い出しておきたい条項である。
Sources
- Ox Alpha - API Pricing & Providers - OpenRouter公式モデルページ(確認日: 2026年8月23日)
- OpenRouter Models API - OpenRouter公式APIの機械可読メタデータ(確認日: 2026年8月23日)
- Stealth Program End User License Agreement - OpenRouter公式規約(2026年7月6日更新)
- Stealth Program Supplemental Terms - OpenRouter公式規約(確認日: 2026年8月23日)