AlibabaのAIモデル開発チームQwenが2026年8月3日、大規模言語モデル「Qwen3.8-Max」を正式リリースしました1。総パラメータ2.4兆・アクティブ950億で、公式ブログは「Qwen-Maxクラスのモデルのウェイトをオープンソース化するのは今回が初めて」とし、ウェイトを翌週に公開すると告知しています1。
7月19日のプレビュー発表を扱った前回の記事の時点では、ベンチマーク・ライセンス・公開時期がいずれも未公表でした。今回はそのうち価格とベンチマークが公表され、ウェイト公開にも「来週」という時期の目安が付いています。
価格とアクセス方法
提供窓口はQwenCloudで、APIから呼び出します1。価格表には入力が100万トークンあたり2ドル、出力が同6ドル、コンテキスト長は100万トークンと表示されています2。公式ブログのセットアップ例には "context_window": 1000000 という設定値のほか、ANTHROPIC_AUTH_TOKEN を設定する手順も含まれており1、Anthropic互換のエンドポイントから既存のツールをつなぎ替えて試せる形になっています。
アーキテクチャの土台はQwen 3.5で、そこから2.4兆パラメータへ規模を広げたと説明されています1。総パラメータのうち実際に動くのは950億です。同社は公式Xで、小型の「Qwen3.8-27B」も同じく翌週にオープンウェイト化すると告知しています3。
一方で、ライセンスの種別は今回も明らかにされていません。公式ブログにあるのは「オープンウェイト」という表現と「来週」という時期だけで、商用利用の可否を判断できる情報は現時点では出ていません。K-EXAONE 2.0がApache 2.0で公開されたように、条件が明示されて初めて業務での採用可否が決まる部分なので、ここは公開を待つことになります。
公式ベンチマークは項目ごとに勝ち負けが割れている
同社はOpus 4.8・Fable 5・GPT-5.6 Sol(max)・前世代のQwen3.7-Maxと並べた比較表を公開しました1。コーディング関連の主な数値は次のとおりです(いずれも同社が自社で測定・掲載したもの)1。
| ベンチマーク | Opus 4.8 | Fable 5 | GPT-5.6 Sol (max) | Qwen3.7-Max | Qwen3.8-Max |
|---|---|---|---|---|---|
| Terminal Bench 2.1 | 84.6 | 84.6 | 88.8 | 74.5 | 86.6 |
| SWE-bench Pro | 69.2 | 80.0 | 64.6 | 60.6 | 67.7 |
| DeepSWE 1.1 | 59.0 | 70.0 | 73.0 | 21.6 | 56.6 |
| FrontierSWE | 70.0 | 88.8 | — | 40.7 | 73.5 |
| PaperBench | 80.3 | 88.8 | 90.5 | 64.8 | 93.0 |
| AndroidBench | 69.8 | 84.5 | 74.0 | 56.5 | 75.1 |
前世代のQwen3.7-Maxからの伸びはどの項目でも大きく、DeepSWE 1.1では21.6から56.6へと差が開いています1。一方で他社モデルとの比較は項目によって向きが変わります。PaperBenchでは93.0で表中の最高値ですが、SWE-bench ProではFable 5の80.0に対して67.7、DeepSWE 1.1でもFable 5の70.0・GPT-5.6 Sol(max)の73.0に対して56.6と、下回る項目も表にそのまま載っています1。7月時点の「Fable 5に次ぐ」という同社の位置づけを、今回の表が一律に裏付けているわけではありません。
数値の読み方には注意も要ります。脚注によると、Terminal Bench 2.1でQwen3.8-MaxはClaude Codeを使ったavg@10で測定され、他社モデルについては「ハーネス横断で公表されている最良のスコア」を採用したと説明されています1。SWE-bench Proでは、問題のあるタスクを修正したうえで、すべてのベースラインを改訂版で評価し直したとも書かれています1。同じベンチマーク名でも実行の仕組み次第でスコアが動くことは、OpenAIが2つのAPI設定でARC-AGI-3のスコアが約3倍になったと報告した件でも示されたばかりです。表の数値は横並びの序列としてではなく、条件込みで読む必要があります。
QwenSWEBench・QwenQoderBenchなど表に含まれるいくつかの項目は、同社の内製ベンチマークであると脚注に明記されています1。第三者による検証はこれからです。
16日間の自律運用で265コミット
今回の発表で同社が前面に出したのは、単発のコード生成ではなく長期間の自律運用でした。oh-my-cli というプロジェクトをゼロから作らせ、10日以上にわたる自律コーディングの実行を通じて、自分自身を改良していく仕組みを構築させたと説明しています1。要件をGitHub Issuesに正規化し、エージェントが状態機械を通じて引き受け、実装後にE2Eテストとチェックを走らせてPRをマージする、という一連の流れを回させた形です1。
同社によれば、2026年7月30日時点で約16日間の完全自律運用の結果、リポジトリには265コミット・127PR・151イシューが蓄積したとしています1。プロジェクトの記録は公開リポジトリで確認できます1。別の課題では、arXivに公開されている論文をコードで再現させたうえで、さらに改善させることを求めたとしています1。
こうした「長時間動かし続ける」使い方が現実的かどうかは、モデル単体の性能だけでは決まりません。エージェントをどう起動し、どこで止め、どの範囲の権限を与えるかという運用側の設計に左右される部分が大きく、Gemini APIのマネージドエージェントにツール呼び出しを止めるフックが追加されたように、提供側も止め方の仕組みを整えている段階です。
兆単位のウェイト公開が続く
大型モデルのウェイトが公開される流れは、この数週間で立て続けに起きています。Moonshot AIは7月末にKimi K3のフルウェイトを公開し、LG AI Researchも750BのK-EXAONE 2.0をApache 2.0で公開しました。Qwen3.8-Maxのウェイトが予告どおり公開されれば、フロンティア級を掲げるモデルで自社インフラにホストできる選択肢がさらに増えることになります。
もっとも、2.4兆パラメータのモデルを自前で動かせる組織は限られます。実務上の意味が大きいのは、むしろ公表された価格のほうでしょう。入力2ドル・出力6ドルという水準と100万トークンのコンテキストは、既存のAPI利用を置き換えるかどうかを試算できる材料になります。オープンウェイト化そのものをどう扱うべきかについては、Anthropicが「禁止は主張していない」と述べつつ規制論点を3点に絞った見解も出ており、公開の是非より条件の設計に議論が移りつつあります。
評価用途で試すなら、Anthropic互換エンドポイントで小さく差し替えて自社のタスクで測るのが手っ取り早いでしょう。本格採用の判断は、ライセンス条件の公表と第三者ベンチマークが揃ってからでも遅くありません。
Sources
- Qwen3.8-Max: A New Bar for Coding and Cowork - Qwenチームによる公式発表(2026年8月3日)
- QwenCloud - 公式の価格・仕様表示
- Alibaba Qwen公式Xポスト - Qwen3.8-27Bのオープンウェイト化の告知