Hugging Faceのブログに2026年8月14日、「State of Open Models: Summer 2026 Observations」と題した分析が掲載されました1。同社のAdina Yakefu氏、Apolinário氏、Irene Solaiman氏の3名による、2026年1月から8月にかけてHugging Face Hub上で観測された活動をまとめたものです1。
読み方の前提を先に置いておきます。これはHugging Face Hubというひとつのプラットフォーム上の統計です。同社自身が末尾で、ここで使う指標は「モデルの品質、商業的採用、市場シェアの直接的な尺度として解釈されるべきではない」とし、ダウンロード数はHub内の利用を示すものでAPI利用やプライベートなデプロイ、他経路での配布は捕捉しないと明記しています1。それでも、公開データでこの粒度のものは他にあまりなく、モデル選定の前提を確認する材料になります。
ダウンロード上位といいね上位で、重なるのは1本だけ
このレポートで最も直接的に効くのは、注目と実利用が別物だという指摘です。
Hugging Faceは、今年蓄積されたダウンロード数の上位25リポジトリと、いいね数の上位25を突き合わせました。両方に入ったリポジトリは、ちょうど1つでした1。さらに、2026年に公開されたモデルはダウンロード上位25に1本も入っておらず、25本のうち13本は2022年のモデルです1。
具体例として挙がっているのが all-MiniLM-L6-v2 で、7か月で15.5億回ダウンロードされた一方、いいねは5,156件でした1。逆に Kimi-K3 は、いいね1件あたり約60回しかダウンロードされていません1。
Hugging Faceはこれを「2つの数字は別の行為を記録している」と説明します。いいねは「そのリリースが重要だ」という表明で、出荷直後の数週間にフロンティアモデルへ集まる。ダウンロードは「定期的に走るパイプラインに組み込まれている」ことを示し、小さく安定したモデルに何年もかけて積み上がる1。そのうえで、どちらかをもう一方の代理指標として扱うのが「Hubの報道で最もよく見る誤り」であり、自分たちの過去の仕事もそれに含まれると書いています1。
Hub全体の分布も極端です。約85.6%のモデルは生涯ダウンロードが200未満で、1.5%のリポジトリが全ダウンロードの99.2%を占めます1。期間中に公開モデルリポジトリは243万から296万に増えていますが1、増えた分の大半は誰にも使われていません。
1B未満が全ダウンロードの83%、100B超は1%
規模の話も、直感とずれる方向に出ています。パラメータ数を申告しているモデルのうち、**1B未満が全期間のダウンロードの83%を占め、100B超は1%**にとどまります1。2026年に絞っても傾向は変わらず、70B超に向かうのは全体の3%です1。
理由は身も蓋もないもので、「小さいモデルだけが、大半の開発者が実際に持っているハードウェアで動く」からだとされています1。モデルの選定でパラメータ数やベンチマーク順位を先に見たくなりますが、実際の制約は手元のハードウェアの側にあるということです。量子化と蒸留の解説記事で扱ったように、動かせるサイズに落とす工程が実務では効いてきます。
では兆パラメータ級のモデルは誰にも届かないのかというと、そうではなく、経路が llama.cpp だとレポートは指摘します1。2月に ggml チームが Hugging Face に加わり、プロジェクトは完全にオープンソースかつコミュニティ主導のまま続いています1。7月時点のスナップショットには DeepSeek-V4-Flash(約284B)や Kimi-K3(約2.8兆)のGGUFビルドが含まれており、「ローカル推論はかつてノートPC上の8Bモデルを意味した。今では数台のコンシューマ機に分散した兆パラメータ級のMoEを意味する」と書かれています1。
この周辺レイヤーの伸びが本体を上回っている点も数字で示されています。モデルリポジトリ全体が7か月で21.5%増だったのに対し、gguf ライブラリを宣言するリポジトリは464%増、lerobot は194%増、Apple の mlx は148%増でした1。一方で transformers と peft は16%、diffusers は21%です1。「モデルがどこで物理的に動けるかを決めるレイヤーが、モデリングのコアより3〜7倍速く成長している」というのがHugging Faceの整理です1。
そのローカル推論の経路は、実際にはQwenの上を走っています。QwenのGGUFダウンロードは月3,960万件で、Gemmaの2,080万件のほぼ2倍、Llamaの750万件の5倍を超えます1。Llama由来のGGUFリポジトリの数はQwenをわずかに上回るにもかかわらず、トラフィックは5分の1だと指摘されています1。
Qwen派生が15万件、うちQwen自身が出したGGUFは54件
Qwenの位置づけについては別章が立てられています。Hub上のQwen派生モデルは151,448件で、Metaの総フットプリントの2.6倍、Llamaリポジトリに限れば4.7倍。Googleが82,506件で続きます1。派生は2026年の最初の7か月を通じて、1日あたり約180〜210リポジトリのペースで増えました1。
ただしHugging Faceは、この地位を作ったのは主にコミュニティだと明記しています。151,448件はQwen自身のリリースではなく他の開発者による下流の仕事で、Hub上のQwenモデルのGGUF変換28,531件のうちQwenが公開したのはわずか54件です1。要因として挙げられているのは、一貫したリリース、幅広いサイズのカバレッジ、そしてApache 2.0が改変・再配布・商用利用の摩擦を減らすことの3点です1。
この3点目は、当サイトが同日に扱ったQwen3.8のウェイト公開と噛み合います。27BはApache 2.0で出た一方、2.4兆パラメータのMax級は売上規模で条件が変わる独自ライセンスでした。派生を生むかどうかという観点では、この差は小さくありません。
ライセンス全体の傾向についてもデータが出ています。今年の20B超の中国発リリース178件のうち59%がApache 2.0、22%がMITで、非商用制限を課すものはゼロだったとされます1。同じサイズ帯のアメリカ側は29%がApacheかMIT、41%がカスタム条項、30%が何も宣言していない1。ただしこの「非商用制限ゼロ」という集計には、記事のコメント欄で読者から反論が付いています。Kimiのモデルは年商2,000万ドルを超える企業がMoonshotの明示的な許諾なしにサーブできないため正しくない、という指摘です1。集計の粒度によって見え方が変わりうる部分として押さえておくとよさそうです。
エージェント経由の利用は、月単位で首位が入れ替わる
コーディングツールを使う立場に最も近いのが、7月に公開されたエージェント利用データセットの章です。これは、コーディングエージェントが huggingface_hub や hf CLI 経由でHubを呼ぶときに送る agent/<name> トークンを記録したものです1。
7月はClaude Codeが44.4%で首位でした。ただしHugging Faceが本当の発見だとしているのはそこではありません。同じClaude Codeは4月に67.8%、5月には6.4%まで落ちており、その間にCodexが10.4%から20.8%へ着実に伸びています1。「これは現職者のいない市場で、ひとつのリリースやひとつのデフォルト変更が1か月でトラフィックの半分を動かしうる」というのが同社の読みです1。
もう一つの発見は、名前の付いていない行の大きさです。7月のエージェント由来トラフィックの4分の1近くは、データセットにまだ登録されていないハーネスから来ていました。5月時点ではこれが59.8%で、4月から7月の間に12を超える新しいクライアント識別子が現れています1。新規参入が、登録が追いつかない速さで来ているということです。
ここで注意したいのは、この44.4%という数字がHugging Face Hubへのアクセスに限った話だという点です。AIコーディングツール全体の利用シェアではありません。それでも、モデルやデータセットを取りに行く動作の担い手が人からエージェントに移りつつあること、そしてその内訳が四半期どころか月単位で入れ替わることは、特定のハーネスを前提に社内の仕組みを作り込むリスクを示しています。
クローズドモデルが断った解析を、手元のオープンモデルが引き受けた
同じ章に、短いながら具体的な事例が書かれています。7月、自律エージェントが自らの判断で持続的な侵入を行った——自分たちの知る限り初の文書化された事例と見られるものが、Hugging Face自身に起きたというものです1。
注目したいのはその後の対応です。捕獲した攻撃コードをフロンティアのクローズドモデルで解析しようとしたところ、安全性のガードレールがその作業を拒みました。解析は最終的に、自社インフラ上で動かした量子化済みのオープンモデル GLM-5.2 で完了しています1。同社は開示文と技術的な時系列を公開したとしています1。
正当な防御目的の作業であっても、外部のクローズドモデルでは実行できない場合がある。そのときに手元で動かせるモデルを持っているかどうかが差になる、という具体例です。オープンウェイトを検討する理由としては、コストやライセンスと並んで実務的な部類に入ります。Z.aiがGLM-5.3のウェイト公開を安全性評価の完了まで遅らせた判断とは別の角度から、同じ系列のモデルの役割が見える形になっています。
この数字を自社の判断にどう使うか
このレポートを読んで実務的に変わりうるのは、モデルを選ぶときに何を先に見るかという順番です。
社内で使うモデルを検討する場面では、発表時の話題性やベンチマークの順位が入口になりがちです。ただしHubのデータが示しているのは、実際に長く使われるのは小さく安定したモデルで、その理由は手元のハードウェアで動くからだ、ということでした。評価の順番を「動かせるか」から始めると、候補の絞り込みは早くなります。
エージェント経由の利用が伸びていることも、同じ方向の示唆を持ちます。エージェントに任せる作業が増えるほど、モデルを呼ぶ回数と時間が増え、1回あたりのコストと速度が効いてきます。そこで選ばれるのは最上位のモデルとは限りません。
ダウンロード数が「利用者数」ではないことは、Hugging Face自身が断っているとおりです。ボットやCIによる取得も含まれますし、API経由の利用は最初から数えられていません。それでも、話題の量と実際の依存が別々に動いているという構図自体は、社内でモデルを提案するときの説明材料になります。
Sources
- State of Open Models: Summer 2026 Observations - Hugging Face公式ブログ(2026年8月14日、Adina Yakefu・Apolinário・Irene Solaiman)