AMDは2026年7月23日、サンフランシスコで開催した自社イベント「Advancing AI 2026」で、同社初のラックスケールAIシステム「Helios」の量産開始を発表した1。CEOのLisa Su氏は「Heliosは量産段階に入った」と述べ、OpenAI・Meta・Microsoft・Oracleなど主要なAI企業・クラウド事業者が導入予定であることを明らかにした13。
前日の7月22日には、AnthropicがAMD Instinct MI450シリーズGPUを最大2ギガワット分導入する戦略的提携も別途発表されており、AMDはこの提携の中でAnthropicへ最大50億ドルの戦略的出資をコミットしている2。AIの学習・推論インフラをNVIDIAのラックシステムがほぼ独占してきた構図に、量産段階の対抗馬が本格的に加わる形だ。
Heliosの構成 - MI455X 72基とEPYC「Venice」
Heliosは、GPU・CPU・ネットワーキング・ソフトウェアをラック単位で一体化したシステムで、Instinct MI455X GPUを72基、第6世代EPYC「Venice」CPUを18基搭載し、Pensandoのネットワーキング技術で接続する1。AMDはこの構成で「主要な競合ソリューションと比べて最大30%多いトークン/ドル」を実現すると主張しており、NVIDIAの72基構成ラック(Vera Rubin NVL72など)を明確に意識した設計になっている1。
同時に発表された第6世代EPYC「Venice」は、最上位SKUで256コア512スレッド、最大16チャネルのMRDIMM(12.8GT/s)対応、PCIe Gen 6接続を特徴とする1。GPU側では、MI455XがMI355X比で34倍のトークンスループットを持つとAMDは説明しているほか、既存インフラ向けのMI350Pも「競合比で最大4.2倍のトークン/秒/ドル」をうたう1。英ITProによると、AMDはHeliosがNVIDIAのVera Rubin NVL72に対して「AI計算で15%、メモリで50%、スケールアウト帯域で50%上回る」とも説明している4。
いずれもAMD側の主張値でありベンチマーク条件は開示されていないが、性能そのものよりも「トークンあたりのコスト」を前面に出した訴求は、推論コストの逓減が課題になっている現在のAI業界の関心と合致している。
導入企業 - OpenAIはQ4稼働、AnthropicはMI355Xからの拡大
発表で名前が挙がった導入・導入予定企業は幅広い。OpenAIは2026年第4四半期からHeliosを稼働開始し、2027年を通じて拡大する予定1。MetaはHeliosラック上でワークロードの試験・検証を始めており1、MicrosoftやOracle、HPE・Lenovo・Supermicro・AT&T・Ciscoなども導入側に並ぶ14。Cerebrasとも超低遅延の推論サービングで協業する1。
中でも具体的なのがAnthropicとの提携だ。7月22日の発表によると、AnthropicはMI450シリーズGPU(Helios構成ではMI455X)を最大2ギガワット分導入し、最初の1ギガワット分の導入は2027年上半期に開始する2。AnthropicはすでにAMDのMI355X GPUを利用しており、今回はその大幅な拡大にあたる2。AMDは提携に合わせてAnthropicへ最大50億ドルの戦略的出資をコミットし、さらに多年のエンジニアリング協業として、Claudeを使ったAMD Instinct GPU向けワークロードの最適化とROCmソフトウェア開発の加速に取り組む。AMD社内でもエンジニアリング・製品開発部門全体でClaudeを広く採用するという2。
Anthropic共同創業者でChief Compute OfficerのTom Brown氏は「スタック全体でAMDと組むことで、必要な計算能力を確保していく」と述べている2。
「NVIDIA一強」の隙間を埋めてきた代替勢
AIインフラの主役は長らくNVIDIAのGPUとNVLinkベースのラックシステムだったが、この1年で代替調達の動きが目立って増えている。金融機関のオンプレ推論に採用されたSambaNovaの10億ドル調達や、SambaNova製推論チップを担保にした融資枠のような推論特化勢の資金調達が相次ぎ、供給側ではTSMCがAI需要で過去最高益を更新している。需要が供給を上回り続ける中で、買い手側には「NVIDIA以外の選択肢を持つこと」自体に交渉力と供給安定の価値が生まれている。
AMDはこうした流れの中で、単体GPUではなくラック一体型のシステムとして参入した。ソフトウェア面でも、開発者向けにAI駆動の開発プラットフォーム「ROCm.ai」を発表し、Claude・Codex・CursorといったコーディングエージェントでGPUソフトウェアの開発を支援する方針を示している1。NVIDIAの強みであるCUDAエコシステムとの差を、AIエージェントによる開発支援で縮める狙いと考えられる。
AMDは市場の見通しについて、AI需要により2030年の獲得可能市場(TAM)を約2兆ドルと見込んでおり、Su氏は「2030年までにAIアクセラレータ市場は約1.4兆ドルに達し、その大部分をGPUが占める」と述べた3。ロードマップとしてはMI500シリーズ(2027年)、MI600(2028年)も予告されている1。
APIコストと「Claudeの供給力」への含意
AIをAPI経由で利用する企業にとって、今回の発表が短期的に料金へ跳ね返るわけではない。ただ、モデル事業者の推論原価はAPI料金の下限を規定するため、ラックシステムの競争が実際に「トークンあたりのコスト」を押し下げれば、中期的には料金や利用枠の改善につながり得る。特にClaudeユーザーにとっては、Anthropicが最大2ギガワット規模の計算能力を確保したことは、モデルの供給能力・安定性の裏付けとして意味を持つ。
一方で、AMDの性能・コスト優位の主張は現時点で自社発表に基づくものであり、実ワークロードでの評価はこれからだ。自社でハードウェアを選定する読者は、ローカルLLM向けハードウェアの選び方と同様に、ベンチマークの条件と自分の用途の一致を確認してから判断することをおすすめしたい。OpenAIのQ4稼働、Anthropicの2027年上半期の1ギガワット導入開始など、検証可能なマイルストーンが今後1年で順次訪れる。
Sources
- AAI 2026: AMD Delivers Full-Stack Compute for the Agentic AI Era - AMD公式プレスリリース(2026年7月23日)
- AMD and Anthropic Announce Strategic Partnership to Deploy Up to 2 Gigawatts of AMD Instinct MI450 Series GPUs - AMD公式プレスリリース(2026年7月22日)
- AMD takes on Nvidia with its Helios AI rack scale system - TechCrunch(2026年7月23日)
- AMD Advancing AI 2026: Helios on the rise, with launch of new Instinct GPUs - ITPro(2026年7月23日)