Seattle TimesとNewsday、OpenAIとMicrosoftを提訴 - 著作権に加えて商標希釈も主張
米ニューヨーク南部地区連邦地裁に2026年9月4日提出された訴状は、著作権侵害とDMCAの著作権管理情報除去に加え、ハルシネーションによる誤帰属を商標のターニッシュメントとして構成している。救済としてモデルと学習データセットの廃棄も求めた。
米国の新聞社2社、The Seattle Times Company と Newsday LLC が2026年9月4日、OpenAI 系の9法人と Microsoft を相手取って米ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所に提訴した(事件番号 1:26-cv-07644)1。全38ページの訴状は陪審審理を求めている。
訴状が立てる請求は7件で、うち3件は著作権ではなく商標の希釈にあたる1。報道機関によるOpenAIとMicrosoftへの提訴は、2023年のニューヨーク・タイムズ以降続いている2。
請求は著作権・DMCA・商標の三段構え
訴状が立てている請求は次の7件である1。
第一に著作権侵害(17 U.S.C. §501)、第二に代位侵害。代位侵害は Microsoft と一部の OpenAI 法人を名指しし、Microsoft が「原告の作品を含む学習データセットを保存・処理・複製するために使われた巨大なコンピューティング基盤を提供した」と主張する。訴状が Microsoft 自身の商用製品として挙げるのは Copilot と Bing Chat である。
第三・第四はDMCA(17 U.S.C. §1202(b)(1) と (b)(3))で、著作権管理情報(CMI)の除去と、CMI を除去した複製物の頒布を問題にしている。訴状が CMI の中身として挙げるのは記事タイトル・著者名・著作権表示である。
そして第五から第七が商標希釈である。連邦法(15 U.S.C. §1125(c))に加え、ワシントン州法(RCW 19.77.160)とニューヨーク州一般営業法 §360-L に基づく請求が並ぶ。原告は THE SEATTLE TIMES の登録商標4件(いずれも2019年4月30日登録)と NEWSDAY の登録商標1件(1997年3月25日登録)を挙げ、いずれも15 U.S.C. §1065 により不可争(incontestable)の状態にあるとしている。
見出しとURLだけで88語が返ってきた、という主張
訴状に書かれているのは原告の主張であって、裁判所の認定ではない。以下に挙げるスクレイピング・逐語再現・RAGの各主張には、いずれも「upon information and belief」(伝聞・推測に基づく申し立て)という留保が付いている。そのうえで、原告が具体的に挙げているのは次のような内容である。
学習データについては、被告が長年にわたり自動ボットで原告サイトを組織的にスクレイピングし、ペイウォールを迂回し、「数十年来の規範を無視」して記事の複製を得たと主張する1。取り込み先として名指しされているのは WebText、WebText2、Common Crawl、そして Microsoft 自身の Bing 検索インデックスから派生したデータセットである。Newsday については、自社の robots.txt が OpenAI と Common Crawl の双方にクロールを禁じていたとも述べている。
出力については、記事の見出し・公開日・URL だけを与えたプロンプトでも、モデルが記事の相当量を逐語で再現したと主張する1。訴状はこれを「再現されたテキストが、ユーザーが与えたテキストからの複製ではなく、モデルの学習から想起されたものであることを裏づける」と位置づけている。具体例として挙がっているのは、2019年のボーイング737 MAX墜落を扱ったピュリッツァー賞受賞シリーズの記事で、見出しとURLを含む単純なプロンプトから88語が連続して逐語再現されたとする。訴状はこの例に「ペイウォールを回避しようとする読者は ChatGPT に頼めばよいということだ」という評価を添えている。
さらに、RAG(検索連携生成)による現在進行形の複製も主張している。被告のGenAI製品が最新記事を対象に新たな複製を作り続けており、ユーザーの時事的な問い合わせに応じて原告サイトを直接スクレイピングして再現している、という組み立てである。
誤帰属を「ブランドの毀損」として構成する
商標希釈の請求は、著作権では捉えにくい部分を突いている。
訴状は、被告の製品が「原告のものではない内容を原告に誤って帰属させる」、あるいは「原告の内容を別の当事者に誤って帰属させる」ハルシネーションを起こしており、それによって原告と、原告が信頼を築いてきたブランドが誤情報によって毀損されると述べる1。これを商標法上のターニッシュメント(§1125(c)(2)(C))として構成した。
併せてブラーリング(§1125(c)(2)(B))も主張している。原告の商標と原告のジャーナリズムを結びつけてきた「出所を示す独占的な結びつきを削り取り、原告が編集上の統制をいっさい及ぼさないAI生成の代替コンテンツに、その商標を結びつけてしまう」という論理である。
つまりこの訴訟は、「学習に使ってよいか」という入口の問題だけでなく、出力が誰の作品として提示されるかを正面から争点にしている。
求めているのはモデルとデータセットの廃棄
救済の請求も広い。法定賠償または実損害と被告の利益(17 U.S.C. §504)、§1202違反ごとの法定賠償、恒久的差止に加えて、17 U.S.C. §503に基づき原告の作品を取り込んだLLMと学習データセットのすべてについて押収または廃棄を求めている1。商標希釈については、悪意と故意を理由とする3倍賠償と弁護士費用も請求している。
訴状は賠償額の総額を金額で明示していない。
原告側の代理人は Klaris Law PLLC である。Microsoft の広報担当は、提訴は予想外だったとしつつ、話し合いによる解決には応じる姿勢を示している。OpenAI の広報担当も、自社のモデルは公開されているデータで学習しており、それはフェアユースに当たるという立場をメールでの声明で示している3。TechCrunch は、Microsoft と OpenAI が Seattle Times のジャーナリズム関連プロジェクトやフェローシップに資金を出してきた点でこの提訴は特に目を引くと指摘している2。
司法省が留保した「出力側」に、そのまま踏み込んだ
この訴状が提出されたのは、米司法省がAI著作権訴訟に意見書を提出した3日後である。意見書は、著作物でLLMを学習させること自体は「極めて変容的」でフェアユースにあたると主張する一方、出力段階については変容的でない場合がありうると明示的に留保していた。
Seattle Times と Newsday の訴状は、まさにその留保された側に主張を集めている。逐語再現、CMI の除去、そして誤帰属によるブランドの毀損は、いずれも学習の適法性が認められても独立に成り立ちうる争点である。8月に音楽出版社がAnthropicと創業者2人を提訴した件では歌詞の調達・学習・出力という3段階が争われたが、今回はそこに商標という別の法体系が加わった格好になる。段階ごとに分けて考えるという発想は、日本の文化庁のガイドラインが学習段階と生成・利用段階を分けて整理しているのとも共通する。
生成AIを業務で使う側にとって、この訴訟がすぐに何かを変えるわけではない。訴状は主張の束であって判断ではないからだ。ただ、争点の重心が移っていることは読み取れる。学習データの適法性は司法省が一つの立場を示したが、出力が既存の作品を再現していないか、そして出力が誰の名前で提示されるかは、まだ何も決着していない。自社名義でAIの出力を公開する組織にとっては、誤帰属が商標の問題としても争われうる点が関わってくる。Debianが一般決議で生成AIの責任ある利用を可決し、投稿された成果物の責任を投稿者に残す形で線を引いたように、出力をどう検めるかを自前で決めておく必要は当面なくならない。
Sources
- Complaint, The Seattle Times Company v. OpenAI Inc. - 米ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所に2026年9月4日提出された訴状の原本(全38ページ、事件番号 1:26-cv-07644)。CourtListener の RECAP アーカイブより
- Seattle Times and Newsday are the latest publications to sue OpenAI and Microsoft - TechCrunch(2026年9月5日)
- The Seattle Times sues OpenAI, Microsoft over copyright infringement - The Seattle Times の署名記事(Alex Halverson、2026年9月4日)。The Spokesman-Review に配信されたもの
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