米司法省、AI著作権訴訟に意見書 - 「学習はフェアユース、ただし出力は別」

米司法省、AI著作権訴訟に意見書 - 「学習はフェアユース、ただし出力は別」

米司法省が9月1日、OpenAIの著作権侵害訴訟に合衆国の意見書を提出。著作物でLLMを学習させること自体は「極めて変容的」でフェアユースにあたると主張した。一方で出力段階については変容的でない場合があると明示的に留保している。

米司法省は2026年9月1日、OpenAIをめぐる著作権侵害訴訟に Statement of Interest(合衆国の意見書) を提出した1。著作物で大規模言語モデル(LLM)を学習させること自体は「極めて変容的(exceedingly transformative)」であり、フェアユースにあたるという主張である1。TechCrunchはこれを「米政府が学習データの問題でOpenAI側に立った」と報じている2

ただし、この意見書を「政府がAIの学習を合法と認めた」と読むのは正確ではない。意見書は 学習段階だけを対象にしており、出力段階については変容的でない場合がありうると自ら留保しているからである1

意見書は判決ではない

まず位置づけを整理しておく。Statement of Interestは、司法省が係属中の訴訟で合衆国の利益を裁判所に伝えるための書面で、根拠は連邦法の28 U.S.C. §517にある1。この条文には期間の制限がなく、裁判所の許可も要らない1

つまりこれは、政府が自らの立場を書面で示したものであって、裁判所を拘束するものではない。意見書自身も「フェアユースの審理は各事案の具体的事実と用途に依存する」と述べている1。加えて、政府は脚注で「本訴訟で主張・記述された行為のいずれかが政府によって許可・承認されたとは主張しない」とも断っている1

政府は簡潔にするためニューヨーク・タイムズとOpenAIのみに言及するとしたうえで、法的主張は本訴訟および関連事件のすべての当事者(書籍の著者・出版者を含む)に同様に当てはまるとしている1。争点が個別の訴訟にとどまらないという想定がある。

「学習は変容的」という論理

政府がフェアユースを主張する論理はこうである。LLMは著作物を「その表現内容を複製するため」に使うのではなく、「語彙・構文・知識を含む書かれたテキストの統計的パターンを学習し作用させる過程の一部」として使う1。複製の目的(知的で対話的なモデルを作ること)は、複製された著作物の目的(言語で読者を楽しませ教えること)とは種類が異なる、という整理である1

意見書は、著作物を複製してLLMを学習させることを「変容的――目を見張るほどに」と表現した2025年の裁判例を引いたうえで、「LLMを学習させるための複製の利用は、並外れて変容的である」と結論づける1。OpenAIが商用目的でLLMを使っていることについては「判断を動かさない」としている1。潜在的市場への影響を見る第4要素についても、フェアユースを強く支持すると述べている1

合衆国の利益として挙げられているのは、AI産業の競争力と国家安全保障である1。意見書は2025年1月と2026年6月の大統領令を引き、米国の世界的なAI優位を維持することが合衆国の政策だとしたうえで、「米国内で強固なAI産業を発展させることを著しく困難にする法規範は、国家安全保障を脅かし、そうした制約を受けない外国の敵対者に競争上の優位を与える」と主張する1

ライセンス料をめぐる主張

競争についての議論も含まれている。政府は、誤ったフェアユース判断はLLM市場の競争を損なうとする。ライセンス料を払える資本があるのは最大手のテック企業だけになりうるからである1。さらに、そうしたライセンス料は書かれた出版物の量が圧倒的に多い既存の大手メディアに不均衡に利益をもたらすとし、「ライセンス参入障壁によって最大手のテック企業がLLM学習の寡占を持つことは、公共の利益にならない」と述べている1

ただしここにも留保がある。政府は脚注で、ライセンス制度が財政的・実務的に実行可能かについては立場を取らないと明示している1。同じ脚注で、学習がフェアユースかどうかにかかわらず、主流・独立を問わず出版者は開発者に特別なアクセスを与えるライセンス契約を結ぶことができるし実際に結んでいる、とも述べている1。学習の適法性とライセンス市場の存在は別の話だ、という整理である。

出力段階に付けられた留保

この意見書でもっとも見落とされやすいのが、学習段階と出力段階の切り分けである。

政府は、LLMの開発が複数の段階に分かれること、そして 各段階が著作権法上それぞれ別の問題を生じさせうることを明示したうえで、自らは学習段階に焦点を当てると述べている1。そのうえで、次のように書いている。「たしかに、出力(学習ではなく)段階では、LLMが元の著作物を再構成して配布する場合、一定の利用は変容的でないことがありうる」1

つまり政府は、生成された出力が著作物を再構成して配布するようなケースについて、フェアユースが成立しない可能性を認めている。政府の主張は「利用ごとの分析が必要なので、パターンを理解し予測を返すツールの開発は、人がそのツールを使って一定の出力を生成する場合と区別されなければならない」というものであり、学習を守るために出力まで守っているわけではない1。救済についても、わずかな例外的な再構成的出力が出力利用一般への巨額の責任を支持するものではない、という限定の付け方をしている1

この切り分けは、いま進行中の他の訴訟とも噛み合う。8月に音楽出版社がAnthropicと創業者2人を提訴した件では、歌詞の調達・学習・出力という3つの段階がそれぞれ争点になっていた。段階ごとに別々に判断するという考え方は、日本の文化庁のガイドラインが学習段階と生成・利用段階を分けて整理しているのとも通じる。

業務で使う側にとって変わること、変わらないこと

意見書が出たからといって、生成AIを業務で使う側の法的な立場が直ちに変わるわけではない。判決ではないからである。

変わるのは交渉と議論の環境のほうだろう。学習データの適法性について米政府の立場が書面になったことで、この論点をめぐる主張は今後この文書を参照して行われることになる。ライセンス契約の交渉でも、権利者側と開発者側の双方がこの立場を織り込むことになると考えられる。

一方、実務上の論点はあまり動かない。政府が留保した通り、リスクが残るのは出力側である。生成AIに書かせた文章や画像が既存の著作物を再構成していないかを確認する工程は、学習の適法性がどう決着しても必要であり続ける。自社での利用ルールを作る立場からすれば、学習データの議論より、出力のチェック体制をどう設計するかのほうが引き続き手を動かす対象になる。ソフトウェアの世界では、Debianが一般決議で生成AIの責任ある利用を可決したように、成果物の扱いを組織やコミュニティが自前で決める動きも並行して進んでいる。

Sources

  1. Statement of Interest of the United States - 米司法省が In re: OpenAI, Inc. Copyright Infringement Litigation(25-md-3143 (SHS) (OTW)、米ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所)に2026年9月1日に提出した意見書の原本(全20ページ)。CourtListener の RECAP アーカイブより
  2. US government sides with OpenAI on issue of training LLMs on copyrighted material - TechCrunch(2026年9月2日)

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