Anthropicは2026年7月6日、コーディングエージェント「Claude Code」の誕生の内幕を関係者の証言で綴るフィーチャー記事「The Making of Claude Code」を公開しました12。共同創業者のBen Mann氏、Claude Code責任者のBoris Cherny氏ら開発チームと早期ユーザーの証言を、起源から将来展望まで7部構成のオーラルヒストリー(証言録)としてまとめたものです1。インタビューは2026年2月〜5月に収録されました1。
いまやAIコーディングツール市場の主要プレイヤーとなったClaude Codeですが、記事が明かすその原点は、社内でほとんど注目されなかった一つのデモでした。本稿では、証言から浮かび上がる開発の経緯と、AIプロダクト開発に携わる読者への示唆を整理します。
原点はVS Code拡張と社内ツール「clide」
Mann氏によれば、Anthropicが創業後最初に作ったプロダクトは、実はコーディングアシスタントでした。VS Code拡張として作られ、プロンプトごとに4つの提案を返すチャット型で、2022年春時点で約100人の外部ユーザーがいたといいます13。並行して研究側では、2022年初頭から自律的にソフトウェアエンジニアリングを行うモデルの構築を検討し、エージェント訓練用の強化学習基盤を作っていました1。コーディングに注力した理由について、強化学習責任者のShauna Kravec氏は「変革的AIへの道は、ソフトウェアエンジニアリング業務の大部分を自動化する能力を通ると考えていた」と語っています1。
その後に生まれたのが、社内CLIツール「clide」です。ターミナル上でClaudeとチャットしながらコード編集や開発タスクをこなせるツールで13、証言では「不安定で、時代をはるかに先取りしていた」と評されています1。後のClaude Codeの要素が、既にここに現れていたことになります。
「いいね2〜3個」だったデモが製品になるまで
転機は2024年です。Mann氏は同年1月に新製品開発チーム「Labs」を設立し、「エージェンティックコーディングに市場の穴を見た」と語ります1。同年9月にLabsへ加わったCherny氏は、当初は小さくリンターを作りたいと考えていましたが、Mann氏は「大きいことをやれ」と促しました1。
Cherny氏はclideでプルリクエストが自動で書き上がる体験を「あんなものは見たことがなかった。衝撃だった。未来のように感じた」と述懐しています1。そして約2日で「Claude CLI」と名付けたデモを作り、社内Slackに投稿します。反応は「いいね2〜3個だったと思う」1。それでも翌日には同僚が実務のコーディングに使い始めており、Cherny氏は毎週末も開発を続けるようになったといいます1。
開発は2024年12月までCherny氏とSid Bidasaria氏を中心とするごく少人数で進み、ゴーサインが出た後に6〜7人が合流して最終2週間のスプリントを実施。バグ報告やログインフローなど、現在の中核機能の多くはこの2週間で作られました1。そして2025年2月、「Claude CLI」から「Claude Code」への改名とともに外部公開(リサーチプレビュー)されます1。当サイトでも正式リリース時にその特徴を紹介しましたが、ローンチ前の早期アクセスでの反応は「生ぬるかった」と、プロダクト責任者のCat Wu氏は振り返っています1。
離陸のきっかけについてCherny氏は「ビジネスモデルの革新(サブスクリプション導入)とモデルの革新(Claude 4世代)が組み合わさった」ことを挙げています1。デザイナーのMeaghan Choi氏も「Claude 4のモデルが出たとき、私たちの瞬間が来た。それまではモデルが、作りたいプロダクトに追いついていなかった」と証言しており1、プロダクトの完成度だけでなく、基盤モデルの能力が閾値を超えたことが決定的だったことがわかります。
数字が示す変化 - 10%から100%へ
記事には、この2年の変化を象徴する具体的な数字も登場します。Cherny氏自身のコードに占めるClaude Codeの執筆比率は、公開当初の2025年2月にはごく一部でしたが段階的に上がり、2025年冬には「100%。1行も手で書いていない」に達したといいます1。この点はCherny氏が2026年1月にもX上で「個人的には2ヶ月以上100%が続いている。小さな編集すら手でしていない」と明かしたことがFortuneで報じられており4、同報道によればAnthropicの広報担当者は、会社全体ではAIがコードの70〜90%を書いており、Claude Code自体については約90%だと説明しています4。Cherny氏はインタビュー前日に1日で88コミットを書いたとも語っています13。
ユーザーの行動も変わりました。Wu氏は「ローンチ当初は全員がClaude Codeの許可リクエストを一つひとつ読んでいた。今では大部分のユーザーが全てを自動承認している。Claudeが信頼を勝ち取ってきた変化だと思う」と述べています1。社外でも、決済企業Rampのように社内布教から全社的な活用文化を築いた例や、JavaScriptランタイムBunの創業者Jarred Sumner氏が「Claude Codeで使いやすいようにBunの開発優先順位を変えた」と語る例が紹介されており1、アルバータ州政府が4億行超のコード監査に活用した事例のような大規模利用は、こうした積み重ねの延長にあります。
読者への示唆 - 「未完成で出し、モデルの進化を待つ」という開発観
この記事がAIプロダクトの開発・導入に関わる読者に示すのは、完成度の考え方の違いです。Mann氏は「今は20〜30%しか動かないものを作らないといけない。次のモデルが出たときに80%動くようになり、それで市場の足がかりを得られる」と語っています1。モデルの能力向上を織り込んで、現時点では不完全なプロダクトを先に作っておくという発想で、研究エンジニアDawn Drain氏の「モデルの能力が閾値を超えれば、フォームファクターはおのずと姿を現す」という証言とも呼応します1。実際、Anthropicはコードの大部分をClaude自身が書く開発体制を公言しており、道具の進化がさらに道具の開発を速める循環が起きています。
チーム運営の面では、Cherny氏が「チームを小さく保ったことが成功に非常に重要だった。リソースに創造的になれたし、過剰設計を防げた。そして自分たちがClaudeを使い倒さざるを得なくなった」と振り返っている点1、自動アップデートと詳細なユーザーメトリクスを最初期に組み込み、フィードバックから数分で修正を届けられた点1も、AI時代のプロダクト開発の参考になります。
将来については、Igor Kofman氏が「複数のClaudeを管理するのではなく、Claudeたちのマネージャーを管理する抽象化レベルに進む」と語り、Kravec氏は「2026年と2027年の大部分では、3ヶ月という短い期間で非常に多くのことが起きる。その混乱ぶりに誰もが備えられているとは思えない」と展望しています1。原文は7部構成の長編ですが、ターミナル風UIで読む演出も含めて作り込まれており、Claude Codeを日常的に使う読者には一読の価値があります1。
Sources
- The Making of Claude Code - Anthropic公式フィーチャー記事(2026年7月6日)
- Anthropic News - Anthropic公式ニュース一覧(公開日の確認)
- Claude Code’s Origins Revealed: Born from AI Safety Alignment - BigGo Finance(2026年7月7日)
- 100% of code at Anthropic and OpenAI is now AI-written, say Boris Cherny and Roon - Fortune(2026年1月29日)