Googleは2025年3月25日、Gemini 2.5を「思考モデル(thinking model)」として発表した1。従来のように瞬時に答えを返すのではなく、応答の前に自らの思考を通じて推論することで、性能と精度を高めるモデルと位置づけられている。この「答える前に考える」仕組みの背景は推論モデルとはで解説している。
注記(2026年7月更新): 本記事は公開時に発表時期や性能値に誤りを含んでいたため、公式発表に基づいて全面的に見直しました。特に「Deep Think」は2025年3月のGemini 2.5発表と同時ではなく、後日別機能として提供された点を修正しています。
Gemini 2.5:応答前に推論する「思考モデル」
Googleは、大幅に強化したベースモデルと改良した事後学習(post-training)を組み合わせ、こうした思考能力を自社の全モデルに直接組み込んでいくと説明した1。前世代の思考モデルとしては「Gemini 2.0 Flash Thinking」が挙げられている。思考モデルは、問題を内部で推論してから回答を生成するため、多段階の論理や数学・科学のような推論を要するタスクで精度が上がりやすいとされる。
発表時のベンチマークと提供状況
発表時点でのGemini 2.5 Proは、対話型評価のLMArenaリーダーボードで大差の首位に立ったとされ、GPQAやAIME 2025といった数学・科学系のベンチマークでも上位の成績を示した1。難問ベンチマークのHumanity’s Last Examでは18.8%、ソフトウェア開発タスクのSWE-Bench Verifiedでは63.8%を記録している1。
提供面では、発表と同時にGoogle AI StudioとGeminiアプリ(Gemini Advancedユーザー向け)で利用可能になり、Vertex AIには後日対応するとされた。コンテキストウィンドウは当初100万トークンで、200万トークンへの拡大が予告された1。
後日追加された並行思考「Deep Think」
「Deep Think」は、Gemini 2.5の発表と同時に導入された機能ではない。GoogleはDeep ThinkをGoogle I/O 2025で発表し、2025年8月1日にGoogle AI Ultraのサブスクライバー向けに一般提供を開始した2。
Deep Thinkの特徴は、逐次的に思考過程を並べるのではなく、「拡張された並行思考(extended, parallel thinking)」と新しい強化学習の技術を用いる点にある2。この方式では、Geminiが多数のアイデアを同時に生成して並行して検討し、時間をかけて異なるアイデアを修正・統合していく。単一の思考の流れを追うのではなく、複数の仮説を同時に走らせて比較・統合するアプローチと言える。
Deep Thinkの性能と提供範囲
Googleによれば、Deep ThinkはコーディングのLiveCodeBench V6やHumanity’s Last Examでstate-of-the-artの性能を示し、標準版は2025年の国際数学オリンピック(IMO)ベンチマークでBronzeレベルに達したとされる2。また、特化版が2025年のIMOで金メダル相当の成績を達成したと報告されている。ただしこの金メダル相当は「特化版(specialized version)」の成果であり、一般提供される標準のDeep Thinkの性能とは条件が異なる点に留意が必要だ。
アクセスはGoogle AI Ultraのサブスクライバーに限定され、Geminiアプリ内で切り替えて利用する形で提供された2。高度な推論を必要とする創造的な問題解決、コーディング、科学的発見、反復的な設計などが想定用途に挙げられている。
「思考の深さ」と「速度・コスト」の使い分け、その後の展開
Gemini 2.5とDeep Thinkは、「モデルが応答前にどれだけ考えるか」を制御する方向でAIが進化していることを示す例と言える。思考モデルは推論を要するタスクで精度を上げやすい一方、応答までの時間や計算コストは増える傾向がある。Deep Thinkのように高度な推論機能が上位サブスクリプション(AI Ultra)限定で提供された点は、こうした機能のコスト構造を反映している。
モデルを選ぶ際は、「思考の深さ」と「速度・コスト」のバランスを意識することが実務的な判断材料になる。用途が定型的な処理であれば軽量モデルで十分な場合が多く、複雑な推論が必要な場面でのみ思考モデルや並行思考機能を使う、といった使い分けが現実的だ。
なおGeminiシリーズはその後も世代を重ねており、後継のGemini 3では推論性能がさらに強化されている。本記事で扱ったGemini 2.5とDeep Thinkは、その基盤となった「思考モデル」という設計思想の出発点として位置づけられる。
Sources
- Gemini 2.5: Our most intelligent AI model - Google公式ブログ(2025年3月25日)
- Try Deep Think in the Gemini app - Google公式ブログ(2025年8月1日、Deep Thinkの一般提供)