最上位モデルに企業は金を払っていない - Rampの支出データが示す価格の壁

法人カードのRampが公開した2026年8月のAI Indexで、Anthropicのフラッグシップ Fable 5 が同社から購入されるトークンの6%、支出額の11.4%にとどまることが示された。同社の主任エコノミストは、この価格帯では性能の上積みが価格に見合っていないとし、企業がAIに払う額の上限が見えたと位置づけている。

最上位モデルに企業は金を払っていない - Rampの支出データが示す価格の壁

社内でAIを使うときのモデル選びは、しばしば「一番性能の高いものを標準にしておけばよい」という発想で進む。法人カード・支出管理の Ramp が2026年8月12日に公開した月次レポート「Ramp AI Index」は、実際の支払いデータがその発想を支持していないことを示している1

数字はこうだ。直近1か月で、Anthropicのフラッグシップである Fable 5 は、企業がAnthropicから購入したトークン6%、支出額でも 11.4% にとどまった1。同社のモデルの中で群を抜いて高価であるにもかかわらず、金額シェアが1割そこそこという意味になる。

比較対象に置かれたのはOpenAIのフラッグシップ

レポートは比較としてOpenAIの数字を並べている。GPT-5.6 Sol はOpenAIのトークンの 25%、支出の 23% を占める1。フラッグシップが自社内で占める位置が、両社でまったく違っている。

さらに、7月のモデル別支出で見ると Fable 5 はGPT-5.6 Solのおよそ75% の規模だった1。Anthropicの最上位モデルが、OpenAIの最上位モデルより企業に使われていないことになる。

レポートを書いたRampの主任エコノミスト Ara Kharazian 氏は、Fable 5 を市場で最も性能が高いモデルであると同時に最も高価なモデルだと位置づけている。100万トークンあたりおよそ10ドルで、依然として高性能なGPT-5.6 Solの2倍だという評価だ1。そのうえで、この価格帯では性能の上積みが価格に見合っていないと述べ、Fable 5 によって企業がAIに払う額の上限が新たに見えたとまとめている1

なお、この「2倍」はレポート公開時点(2026年8月12日)の比較である。OpenAIは8月21日にGPT-5.6 Solを入力$4.00・出力$20.00へ引き下げており2、現在の価格差はレポートが前提にしていた水準とは変わっている。値下げの詳細は別記事で扱った

このデータが見ている範囲

数字を受け取る前に、どこまでの話なのかを確かめておく必要がある。

Ramp AI Index は、Rampの支出データを使って米国企業のAI利用を追う調査だ1。つまり母集団は Rampを使っている米国企業 であって、世界のAI市場全体ではない。

Fable 5 のチャートについては範囲がさらに狭い。Ramp自身が注記で、このデータは同社のトークン支出管理プロダクト由来であり、サンプルが通常のAI Indexよりややテック寄りだ と断っている1。そのうえで、実際のFable採用率はここでの推定よりさらに低い可能性が高いとも述べている1。データは匿名化・集計されており、個々の企業は特定できない1

性能の高さについての評価もKharazian氏のもので、レポートは独立したベンチマークによる裏付けを示していない1。数字と評価は分けて読んだほうがよい。

同じレポートの、別の顔

このデータを「Anthropicが失速している」という話に短絡させると、同じレポートの他の数字と食い違う。

7月時点で、米国企業の43.5%がAnthropicに サブスクリプションかトークンの代金を支払っており、前月比1.1ポイント増で企業採用の首位を伸ばしている1OpenAIは0.23ポイント増の39.7% で、AI採用全体の伸びを下回った1。xAIは0.94ポイント増の4%で、2025年7月以来の速さで伸びている1

オープンソースモデルなどへのアクセスを提供するモデルサービングプラットフォームを使う企業は、AI利用企業のうち 6.1%(前月比0.2ポイント増)だ1。ただしKharazian氏は、新規のAI支出企業がオープンソースや中国製モデルに流れているわけではなく、初めてAIを買う企業は依然として米国のモデル企業を使っていると明記している1。彼が懸念しているのはむしろ別の経路で、OpenAIと、程度は小さいがAnthropicの採用の伸びがここ数か月で鈍っており、成長の多くを既存の支出企業——とりわけ支出額の大きい企業——に頼ることになるが、そうした企業がオープンソースへの支出を増やしている、という構図である1オープンウェイトモデルの追い上げについては夏時点の状況をまとめた記事がある

支出額そのものは伸び続けている。7月、上位1%の企業は従業員1人あたり月 $7,400(中央値)をAIに使い、上位10%は $650、中央値の企業は $11.95 だった1。企業間の差は3桁に近い。

標準モデルを決める側から見ると

このデータが実務に効くのは、社内でどのモデルを既定にするかを決める場面だ。

Rampの数字が示しているのは、最上位ティアが使われないということではなく、最上位ティアが使われる場面が限られている ということだ。トークンの6%という数字は、多くの企業が「ここぞという処理にだけ最上位を当て、残りは安いモデルで回す」使い分けをしている姿と整合する。Ramp自身が社内で使っていたLLMルーターを外部提供したのも、この使い分けを自動化する動きだった。その仕組みについては別途扱っている

Kharazian氏は、最新モデルの企業採用を促すにはラボが Fable 5 を超える性能を証明し、同時に競合が近づけないようにする必要があるが、オープンソースが数か月遅れまで追いついてきた今、それは次第に手の届かないものに見える、とも書いている1。この見立てが正しいかどうかは別として、モデルの選定を「性能の順位」ではなく「処理ごとの単価と要求水準」で組み立てる企業が増えているという読み方は、支出データと矛盾しない。

Sources

  1. Cracks in the AI Thesis - Ramp AI Index, August 2026 - Ramp Economics Lab、Ara Kharazian(2026年8月12日)
  2. Changelog - OpenAI API - OpenAI公式APIドキュメント(2026年8月21日のエントリ)

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